若い頃、貯金する習慣がなかった。
給料日には、振込された給料の全額をATMで引き出し、次の給料日までに全て使い切っていた。
現在、日本経済を回顧し、失われた三十年という言葉が良く使われるが、当時はそんな状態になるとは予想もしていなかった。
給料は右肩上がりで上がっていって、物価もどんどん上昇していくので、宵越しの金は持たないでもないが、その時、お金を使って楽しまないと損だという気持ちが強かった。
振り返ってみると、私だけでなく、周りの人たちも同じような価値観を持っていたと思う。
飲みに行っても、二軒目、三軒目は当たり前で、気づいた時には終電がなくなっているというのも良くある光景であった。
そんな私も、生活環境に変化もあり、まずは実家を出て、賃貸住宅暮らしを開始した。
この当時、十万程度の家賃を支払っていた。
この生活は数年間続いたが、生活費＋家賃で手取り額をほぼ全て使い切っていた。
この間に支払った家賃は数百万円になった。
この支払いが継続していくことに私は焦った。
それなりの支出が発生しているにもかかわらず、手元には何も残らない状態であった。
大きな借金をするのは嫌だったので、安い中古住宅を購入しようと思い、休日に物件を見に行った。
しかし、自分の気に入った物件がなかなか見つからなかった。
不動産に掘り出し物はないと言われるが、安い物件は価格相応のものであった。
これはどうしたものかと、私は焦り出していた。
